EVENT INFORMATIONイベント情報

2024年度 ナラティブ意識学ワークショップ
「脳・言語・意識」

 私たちの豊かな意識経験を脳はどのようにして形作っているのでしょうか?その深遠な問いを探究するための一つの有望なアプローチが、内観への詳細なアクセスを介して豊かな意識経験を言語報告(ナラティブ)として取り出し、定量化したうえで脳の情報処理と結びつけるナラティブ意識学の方法論です。この方法論を確立するためには、脳、言語、意識それぞれを扱う多様な研究分野の探究を、高度かつ有機的に融合させる必要があります。
 本ワークショップは、脳、言語、意識のいずれかをテーマに探究を進める、神経科学、心理学、認知科学、知能情報学、言語学、哲学などの他分野にわたる研究者を一同に集め、学際的な意見交換と議論の場を提供することを目的としています。本ワークショップが、脳・言語・意識の異分野融合研究を促進し、ナラティブ意識学の創成へとつなげるとともに、豊かな意識経験を形作る脳内メカニズムの解明への大きな一歩となることを期待しています。

日程:2024年9月24日(火)〜25日(水)

開催形式:ハイブリッド
 現地会場:釧路市観光国際交流センター 3F研修室 https://ja.kushiro-lakeakan.com/kkc/
 オンライン:Zoom(接続情報は後日お知らせいたします)

参加費:無料

参加登録用URL:受付を終了しました ※現地参加、オンライン参加によらず事前の参加登録が必須です。
参加登録期限2024年9月20日(金)

ポスター発表申込み用URL:受付を終了しました ※別途、参加登録も必要です。
ポスター発表申込み期限2024年9月20日(金) ※延長しました

主催:科研費学術変革領域(B)「ナラティブ意識学の創成」

オーガナイザー:西田知史(情報通信研究機構)、新川拓哉(神戸大学)、谷中瞳(東京大学)
連絡先:s-nishida [at] nict.go.jp(西田知史)

懇親会(9月24日、現地のみ)
 会場 同センター 2F視聴覚室
 会費 学生以外:3,000円、学生:2,000円
 懇親会への参加を希望される方は参加登録時にお知らせください。

ポスター発表(9月24日、現地のみ)
 本ワークショップではポスター発表を広く募集しています。
 発表を希望される方は、上記の発表申込みURLにてポスタータイトル、著者名・所属の情報を入力し、お申し込みください。
 ポスターを貼付するパネルのサイズは幅1200 mm × 高さ2100 mmです。
 発表者各自でポスターセッションまでにポスターを貼付してください。
 ポスター発表会場と懇親会会場が同一のため、懇親会中もポスターを掲示したままで差し支えございません。

タイムテーブル

2024年9月24日(火)

13:00〜13:05 開会の挨拶
13:05〜13:55 招待講演:井頭 昌彦(一橋大学)『「質的」研究との生産的な交流のために』
13:55〜14:10 休憩
14:10〜15:00 招待講演:八田 太一(静岡大学)『混合研究法の起源と発展:質的・量的アプローチの新たな融合』
15:00〜15:15 休憩
15:15〜16:05 招待講演:鈴木 貴之(東京大学)『人工知能における意識の意義』
16:05〜16:20 休憩
16:20〜17:10 招待講演:大関 洋平(東京大学)『人間らしい言語処理モデルの開発』
17:10〜18:30 ポスターセッション(現地のみ) 会場:2F視聴覚室
18:30〜 懇親会(現地にて希望者のみ) 会場:2F視聴覚室

2024年9月25日(水)

10:00〜10:50 招待講演:高橋 英之(大阪大学)『大切なものは目には見えない~物語と内言により創発するロボットの個性~』
10:50〜11:05 休憩
11:05〜11:55 招待講演:谷口 忠大(京都大学)『集合的予測符号化から、その先へ。~実世界認知に基づく社会での言語創発から意識まで~』
11:55〜12:00 閉会の挨拶

招待講演の紹介

井頭 昌彦(一橋大学 大学院社会学研究科 教授)

「質的」研究との生産的な交流のために

社会科学においては、研究手法やそこからの知見を区別するラベルとして、「量的/質的」という対比がしばしば用いられる。前者の典型は数量化されたデータを用いて統計分析を行うような研究であり、後者の典型はフィールドワークやインタビューの記録あるいは文書などを用いてその解釈を行うような研究である。どちらの手法を軸に人文学や社会科学の研究を進めるべきかという方法論的論争は古くからあるが、1990年代以降に政治学分野で展開されたいわゆるKKV論争がその議論水準を大きく向上させ、そこで得られた知見が隣接諸分野でもしばしば参照されている。本報告では、これまで質的研究にあまり触れてこなかった聴衆を想定し、KKV論争とその後の展開を踏まえて、質的研究の多様性や交流上の留意点などについて導入的説明を行う。

八田 太一(静岡社会健康医学大学院大学 講師)

混合研究法の起源と発展:質的・量的アプローチの新たな融合

混合研究法は、哲学的・方法論的世界観をめぐる構成主義と実証主義の競合を経て、質的研究アプローチと量的研究アプローチに代わる方法論として、1980年代の北米の社会科学領域にて形作られた。2000年頃には混合研究法は健康科学領域においても用いられるようになり、現在では世界中の様々な研究領域で混合研究法を用いた調査や研究が実施されている。一方、2つのアプローチをどの程度組み合わせることができるのかという問題や混合研究法の哲学的基盤については、いまだに議論が続いている。本発表では、混合研究法の起源と発展を概観し、批判的言説の一端を紹介する。

鈴木 貴之(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)

人工知能における意識の意義

近年、人工知能は意識をもちうるかということがしばしば論じられる。これが、哲学者が問題にする意味での意識、すなわち現象的意識に関する問いだとすれば、この問いを単独で考えることはあまり有意義ではなく、どのような存在者が意識をもつのかという、より一般的な問いの一部として検討するのが有意義である。他方で、人工知能と意識の関係に関しては、ほかにもいくつかの興味深い問題が存在する。たとえば、知能をもつシステムは世界に関する情報をどのような形式で表現すべきかという問題や、汎用人工知能の実現にはどのような能力が必要かという問題である。

大関 洋平(東京大学 大学院総合文化研究科 准教授)

人間らしい言語処理モデルの開発

人間の言語能力・言語処理を計算機上で再現するモデルの開発は、認知科学・人工知能の究極的な目標であり、解釈性・頑健性・効率性など深層学習に基づく自然言語処理の諸問題を解決する工学的なポテンシャルも秘めている。本発表では、人間らしい言語処理モデルを開発する研究分野である認知モデリングの概要と展望を紹介する。具体的には、記号・知識と深層学習を融合した言語モデル・構文解析器、認知・脳情報データで言語モデルを訓練・ファインチューニングするためのアルゴリズム、言語モデルの言語能力・言語処理を評価するためのベンチマークを概観する。加えて、認知モデリングの観点から昨今の大規模言語モデルが及ぼす学術的なインパクトについて議論する。

高橋 英之(大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任准教授)

大切なものは目には見えない~物語と内言により創発するロボットの個性~

講演者は,人間と持続的に共生し,我々の暮らしに活力と安心感を提供する「人生併走ロボット」を生み出すことに興味をもって研究している.一方,ロボットの外観や動き,言動など,表層的な部分をどれだけ精緻につくりこんだとしても,それだけではロボットは実際の人間の生活の中でその存在感を持続できない.今回の講演では,ロボットの存在感を持続させる要因として,表層的には見えない要素(物語と内言)が大切である,という仮説を述べ,「物語性をロボットに付与する研究」と「人間の内言世界の多様性を調べた研究」の二つを紹介したい.

谷口 忠大(京都大学 大学院情報学研究科 教授)

集合的予測符号化から、その先へ。~実世界認知に基づく社会での言語創発から意識まで~

人間は実世界環境適応の延長線上に、言語進化を経て現在の言語(記号)システムを創発的に形成してきた。近年、そうして形成された言語を大量に予測学習することによって言語理解や生成を実現する大規模言語モデルが注目されている。一方で、言語そのものを実世界環境適応の延長線上で形成する知能の計算論は十分に理解されていなかった。講演者は記号創発システムの計算モデルとして、集合的予測符号化仮説を提案た。この仮説は、社会における広義の記号システムが、社会を主体として行われる予測符号化によって形成されると主張する。同時にはこの推論は独立した各エージェントの分散的学習と言語ゲームによって行われる学習と等価となり、記号創発は分散型ベイズ推論と考えることができる。同時に集合的予測符号化は社会全体の自由エネルギー最小化しても捉えることができる。本講演では、記号創発システムにおける集合的予測符号化の概念を紹介すると共に、これに関連して学術変革領域「クオリア構造学」において講演者が取り組んでいる研究課題に関しても紹介する。

Reference:
1. Taniguchi T (2024) Collective predictive coding hypothesis: symbol emergence as decentralized Bayesian inference. Front. Robot. AI 11:1353870. doi: 10.3389/frobt.2024.1353870
2. 谷口 忠大, 集合的予測符号化に基づく言語と認知のダイナミクス: 記号創発ロボティクスの新展開に向けて, 認知科学, 2024, 31 巻, 1 号, p. 186-204, doi: 10.11225/cs.2023.064, URL
3. 谷口忠大(編)「記号創発システム論:来るべきAI共生社会の「意味」理解にむけて」新曜社, 2024年9月1日発売, URL

ポスター発表リスト

  1. 土井 智暉 (東大), 磯沼 大 (エディンバラ大), 谷中 瞳 (東大)
    「大規模言語モデルの説明文生成能力における忠実性改善の試み」
  2. Jiaxin Wang(Osaka University), Kiichi Kawahata(Osaka University), Antoine Blanc(NICT), Shinji Nishimoto(Osaka University), Satoshi Nishida(NICT)
    「Nonlinear processing of semantic information across the human brain revealed by asymmetric representations of semantic symmetry」
  3. 前田千結(大阪大)、西田知史(NICT)
    「音楽の好みに関連する神経表現の解明」
  4. 長谷川大(北陸先端大),日高昇平(北陸先端大)
    「動作精度の低下が時間情報の処理に与える影響」
  5. Haruki Takeshima(Osaka University), Kiichi Kawahata(Osaka University), Antoine Blanc(NICT), Shinji Nishimoto(Osaka University), Satoshi Nishida(NICT)
    「Brain-mediated Transfer Learning Enhances Brain-like Information Representations More Effectively in More Advanced Deep Neural Networks」
  6. 橋本 清斗(NAIST),工藤 紀子(NAIST),若宮 翔子(NAIST),矢田 竣太郎(NAIST),荒牧 英治(NAIST)
    「LLMを用いた自由記述アンケートの質的分析」
  7. 青木洸士郎(早稲田大学)、河原大輔(早稲田大学)
    「大規模言語モデルは他者の心をシミュレートしているか?」
  8. LI XUE (神戸大)
    「Relationship neurobiology and philosophy」
  9. 武富有香(NII)
    「ソーシャルメディアの投稿を言語行為として捉える:文学的読解によるナラティブ類型化の試み」
  10. 中田友貴(神戸大学)
    「刑事司法における意識を巡る問題」
  11. 阿部武(大阪大)、前田千結(大阪大)、西田知史(NICT)
    「Emotion Prediction via Transfer Learning with a Self-supervised Model Pretrained on Large-scale Neural Data」
  12. 齋藤一誠(電通大),長野匡隼(電通大),中村友昭(電通大),谷口彰(立命館大),谷口忠大(京大)
    「確率的生成モデルを用いた連続信号をサインとした記号創発」
  13. 岡田心(大阪大学)、新川拓哉(神戸大学)、西田知史(NICT)
    「生成AIとインタビューを用いた顔のリアリティ判断で着目する特徴の探索」
  14. 髙橋利孔(公立はこだて未来大学)、谷中瞳(東京大学)、高村大也(産業技術総合研究所)
    「大規模言語モデルを用いた階層構造に従った手続き的な物語作成支援システムに向けて」